2017/09/24(日)戦国期の「成次第」の意味

後北条氏の例

個別の用例

動員に関して書かれているものは「可能であれば」と読むと前後の文と繋がる。

これは人の動員。「知行の少ない者たちは、全体的な記述基準に合わせて歩兵と書いているが、可能であれば馬上で活躍する心構えでいてほしい」としている。

  • 戦国遺文後北条氏編3229「北条氏政着到書出写」(井田氏家蔵文書)

    (抜粋)同心衆内、少給之衆、惣並故、歩兵ニ記之候、成次第馬上も以、可走廻者、可為心操者也

また下記の例だと、急遽大きな合戦が予定されていたため、珍しく低姿勢で動員をかけている。

  • 戦国遺文後北条氏編3245「北条氏政判物写」(浅草文庫本古文書)

    (抜粋)武具之品ゝ者、日数無程候間、此砌者、調間敷由、校量候、手前之不足ニ有間敷候間、成次第尤候、畢竟能衆上下共ニ被撰出人数、無相違召連、専一候

この中で武具については「日数が無いので、この際は準備できないだろうと考え、本来は許されないが、可能な限りということでよい。とにかく良い兵を上下ともに選出して、間違いなく連れてくるのが大切だ」としている。

少し違う用例

「可能な限り」ではない例でいうと、長柄鑓につける箔について、金でも銀でも可としつつ、「多少は『成り次第』」と書いている。これは箔をつける分量を指しているから「箔の多少は成り行き=適量で」という意味になるだろう。

  • 戦国遺文後北条氏編3830「北条家ヵ着到定書」(千葉市立郷土博物館所蔵原文書)

    (抜粋)拾本、鑓長柄、金銀之間何与成共可推、多少者成次第、二重紙手朱

もう一つ、こちらは氏政上洛に関しての資金徴収に関するもの。納めるものは永楽銭・黄金・麻の三種類で、「これら三つのうちで『成り次第』準備するように」としている。文からして「可能な限り」や「成り行き=適量」ではなく「可能なもの」と解釈すべきだろう。

  • 戦国遺文後北条氏編3517「北条氏忠朱印状」(神奈川県立公文書館所蔵・山崎文書)

    出銭之書出。壱貫八百四十八文。右、御隠居様就御上洛、出銭被仰付候、来晦日を切而可調、此日限相違付而者、可為越度、永楽・黄金・麻、此三様之内成次第可調、仍如件、
    丑十月十四日/(朱印「楼欝」)/高瀬紀伊守殿

織田信長の例

これは信長が家康に、足利義昭との不和から追放に至った経緯を説明したもの。色々と説得したが承知してもらえずに「『成り次第』のほかは選びようがなく」と書いている。これは「成り行き」だと考えてよいだろう。

  • 増訂織田信長文書の研究0367「織田信長黒印状」(古文書纂卅五所収・京都市小石暢太郎氏所蔵文書)

    就上洛之儀、以小栗大六承候、祝着之至候、今度公儀不慮之趣、子細旧事候哉、於身不覚候、君臣御間与申、前々忠節不可成徒之由相存、種々雖及理、無御承諾之条、然上者成次第之外、無他候て、去二日・三日両日洛外無残所令放火、四日ニ上京悉焼払候、依之徒其夕無為之儀取、頻御扱之条、大形同心申候、於時宜者可御心易候、猶大六可申候、恐々謹言。横山辺迄可有御見廻■候、其ニ不及候、遠三表之事、無油断可被仰付事簡要候、爰元頓而可開隙候之間、令帰国可申述候、
    卯月六日/信長(黒印)/三河守殿進覧之候

まとめ

  1. 可能であれば
  2. 成り行き=適量
  3. 調達などで可能なもの
  4. 成り行き=状況の推移のまま